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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)7847号 判決 1977年3月31日

原告

沖繩土木開発リース株式会社

右代表者

岸本弘光

右訴訟代理人

山分栄

外二名

被告

東京リース株式会社

右代表者

中内亮平

右訴訟代理人

尾崎昭夫

外一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金六二六万三〇〇〇円及び内金一二五万二六〇〇円については昭和四八年一二月一日より、内金一二五万二六〇〇円については同年一二月三一日より、内金一二五万二六〇〇円については昭和四九年一月三一日より、内金一二五万二六〇〇円については同年三月一日より、内金一二五万二六〇〇円については同年三月三一日より、それぞれ完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和四八年一〇月二九日、被告との間で、コンクリート舗装床板用フイニツシヤー(NP―GOMAOOO―四五〇)(以下、本件機械という。)二セツトを、期間三六か月、賃料月額一セツト当り六三万六三〇〇円、賃料は手形による一括払の条件で借受けることを約し、その頃、右約定に基づき額面各一二五万二六〇〇円、満期は昭和四八年一一月より昭和五一年七月まで毎月各三〇日(但し二月のみ二八日とする)の約束手形合計三六枚を被告に交付した。

2  原告は、前記約束手形のうち、昭和四八年一一月三〇日、同年一二月三〇日、昭和四九年一月三〇日、同年二月二八日、同年三月三〇日満期の各約束手形について、それぞれ支払をなした。<以下省略>

理由

一請求原因第1項中、昭和四八年一〇月二九日原被告間に本件契約が成立したことおよび原告から被告にリース料支払のための手形が交付されたこと、同第2項の事実ならびに同第3項中、昭和四九年八月三一日被告に到達した書面をもつて原告が本件契約を解除する旨の意思表示をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二そこで原告のリース物件引渡遅滞を原因とする本件リース契約解除の成否について検討することになるが。被告は原告との特約に基づき被告に本件機械の引渡義務がなく、かつ本件契約がフアイナンスリースであるため被告が日発実業に買受代金を支払つている以上原告は本件機械の引渡がないことを理由として本件契約を解除することは許されないと主張するので(抗弁第2項)、まずこの点について判断する。

1  <証拠>を総合すると次の事実が認められる。

被告会社営業第一部営業課長であつた訴外中村昌義(以下、中村という。)は、昭和四八年九月末頃、輸入商社たる日発実業東京支店長沼田実(以下、沼田という。)および日発実業本部付業務部次長田付某から、同年一〇月に設立予定の原告に本件機械を使用させるためのリースを得たい旨の申出を受け、リース料見積書を発行したところ、沼田らから原告が右の条件を承諾したとの返答を得たので、日発実業がリース契約上の原告の債務を連帯保証することおよび被告の日発実業への本件機械買受代金はリース開始後六か月サイトの手形で支払うとの条件のもとに原告との間でリース契約を締結することを承諾し、同年一〇月二〇日頃、本件機械の引渡は日発実業に一任するとの口約のもとにリース契約書、借受証(等の用紙(被告会社名義の調印済みのもの)を沼田らに交付した。沼田らは同月下旬、沖繩県那覇市において原告の取締役かつ実質的支配者である南部産業代表取締役外間尹吉と会い、右各用紙を交付し、リース契約書と本件機械の引渡を受けて検収したことを証明する文書である借受証各一通に原告会社名義の調印を得、これと合わせて原告振出のリース料支払のための約束手形三六通を受領して、帰京し、リース契約書に原告の連帯保証人としての日発実業の調印を加えて、同年一〇月二九日これらを中村に交付して本件契約を成立させ、それと引換えに被告から被告振出で額面三六五〇万円、満期昭和四九年四月二九日または三〇日なる約束手形一通を受領した(本件契約成立の点は当事者間に争いがない。)

ところで、右リース契約書によれば、

(イ)  乙(被告を指す。)は甲(原告を指す。)に本件機械をリース(賃貸)する(第一条)。

(ロ)  リース期間は三六か月とし、乙が本件機械を検収した日から起算する(第二条、別表3)。

(ハ)  リース料は三六回払いとし、本件機械検収時に第一、二回分を現金で支払い、残り三四回分は本件機械検収時にサイトを一か月ずつずらした甲振出の約束手形三四通を一括交付し、その決済により支払う(第四条、別表5)。

(ニ)  本件機械の引渡は甲が売主(日発実業を指す。)と打ち合わせた日時に乙が売主をして甲に送付させて行なう。甲は送付を受け次第、検収し、検収完了次第直ちに借受証を乙に交付する。甲の検収完了により本件機械の引渡があつたものとする。

甲が本件機械を検収する際に瑕疵を発見したときは甲は直ちにこれを乙に通知するとともに借受証にその旨を記載する。甲がこれを怠つた場合には本件機械には瑕疵がないものとする(第七条)。

(ホ)  売主からの本件機械の引渡が遅延したとき、または本件機械に瑕疵があつたときでも、乙はその責任を負わない。引渡遅滞または瑕疵により甲が損害を受けた場合、甲がこれを乙に通知し借受証に記載する義務を履行しているときは、乙は乙の売主に対する損害賠償請求権その他の権利を甲に譲渡する。本件機械に隠れた瑕疵があつた場合、その処理に関して乙と売主との間に特約のないときは、以上の規定を準用する。以上の場合にもこの契約は変更、解除されない(第八条)。

(ヘ)  甲は売主との間で保守サービス契約を締結し、その費用を負担する(第一三条、別表11)。

(ト)  乙は本件機械に課せられる固定資産税を負担する(第一四条)。

(チ)  リース期間の満了または本件機械の盗難・滅失等により契約が終了したときは、甲は直ちに本件機械を乙に送付して返還する(第一八条)。

などが約定されているところ、被告が日発実業を介して原告から受領した前記借受証には不動文字(日時の記載を除く)で「下記物件の検収を完了したので、さきに調印済のリース契約の各条項を承認のうえ、たしかに借受けました借受(検収)日昭和四八年一〇月二九日」との記載が存するのみで、本件機械の検収または引渡が未了であることを示す何等の記載も存在しなかつた。

以上の事実が認められ、<証拠判断省略>。

2  右に認定した事実によれば、本件契約は、本件機械の売主たる日発実業がユーザーたる原告と共同して被告に介入を求めた結果成立したいわゆるフアイナンスリース契約であることが明らかであり、日発実業を含めた三者間の法律関係は、日発実業と被告との間は売買契約、被告と原告との間は賃貸借の要素を含む無名契約たるリース契約として一応把握できるが、両契約関係は相互に密接不可分な関連を有し、その実質はリース業者たる被告の日発実業および原告に対する信用供与にほかならず、原告の被告に対するリース料支払は経済的に観察すると利息付金銭消費貸借契約における元利金均等割賦返済金の意義を有するものといえる。本件リース契約において、被告が引渡遅滞や瑕疵担保の責任を負わないとされること、本件機械の保守サービス業務は原告と日発実業間で別途契約するところによるとされることはいずれも右の実質の反映にほかならない。

ところで、本件機械の引渡がなされなかつた場合に本件契約の効力に如何なる影響を生ずるかについて、本件リース契約書には何等の約定も存在しない。これは、前認定の如く本件リース契約が検収を終えた日から効力を生ずる旨約定されている以上当然のことというべきであるが、それにもかかわらず現実に目的物の引渡のないままにあたかも引渡があつたと同様の事態、すなわち被告から日発実業への買受代金支払と原告から被告に対するリース料の支払が発生した場合には、検収未了なる限りリース契約の効力を生じないと解するのは相当ではなく、フアイナンスリースが金銭消費貸借の実質を有すること前叙のとおりであるから、信用供与者たる被告から信用受供与者の一人である日発実業に買受代金支払という形式による信用供与がなされた以上、リース契約も効力を生ずる(すなわち引渡がないからといつてリース料支払を拒むことはできない。)ものと解すべきである。然るときは、本件において被告が昭和四八年一〇月二九日に買受代金に相当する額面の約束手形を日発実業に対し振出交付したことは前認定のとおりであるから、本件契約は本件機械が原告に引渡されたと否とを問わず右日時以降その効力を生じたものといえる。

そこで、次に、被告主張の被告が本件機械引渡義務を負わないとの特約の存否について判断するに、被告が引渡遅延につき何等の責任を負わずこれを原因としてリース契約を解除されない旨の特約(本件契約書第八条)が存在することは前認定のとおりであるが、右特約はその明文上も引渡自体について被告の義務を免除したものとは解されないのみならず(この点につき右契約書第七条も参照のこと。)、仮りにこの点を逆に解するとしても、リース契約がリースを受ける者(ユーザー)にとつてもつとも意義を有するのは一時に多額の金員を支出せずに目的物件の使用ができる点にあることは疑う余地がないから、如何にリース業者が買受代金を輸入業者に支払つたからといつて、その理由如何を問わずにリースを受ける者に目的物件の引渡なくしてリース契約の拘束を脱する途を与えないのは著しく酷に失するものというべきであり、かかる特約は公序良俗に反し無効であるといわなければならないから、右被告の主張は原告の請求を斥ける根拠とはなり得ない。

そうすると、被告の抗弁第2項は理由がない。

三進んで抗弁第1項の本件機械引渡の存否について判断するに、前叙のとおり成立を認めうる乙第一号証(借受証)の記載によつても、次段認定の事実関係に照らすと、ただちには引渡の存在を認め難く、他にこの点の被告の主張を認めるに足りる直接証拠はない。

すなわち、<証拠>ならびに前認定の事実を総合すると、原告は日発実業と南部産業の共同出資によつて昭和四八年一〇月五日に設立登記を経由した会社であり、その取締役一〇名および監査役二名のうち福田葵、安藤博文、須知裕曠、藤田為則の四名は日発実業の取締役、外間尹吉、上里盛章、外間尹實の三名は南部産業の取締役であつて、両会社と密接な間柄にあること、原告の代表取締役は岸本弘光であるが、同人は傀儡であつて、原告の実権は南部産業の代表取締役である外間尹吉が握つており、原告設立後も本件契約書および借受証に原告名義の調印がなされる当時、原告代表者名義の記名用ゴム印と代表取締役印は外間尹吉ないし南部産業が所持していたこと、日発実業および南部産業は本件に先だつ昭和四八年九月下旬頃、商社である訴外武州商事株式会社(以下、武州商事という。)および同阪和興業株式会社(以下、阪和興業という。)を中間売買人として参加させる「つけ売買」を企て、日発実業から順次右両社を経て最終買受人南部産業に至る売買契約を成立させ、同年九月二八日日発実業は武州商事から売買代金として三三五四万円余の支払を受けたが、右は「から売買」であつて、南部産業には売買の目的物件たる機械が引渡されていなかつたにもかかわらず、南部産業の代表取締役外間尹吉は同年九月二五日頃検収確認のため那覇市に赴いた阪和興業の社員に対し機械が到着している旨を述べ、かつ日発実業の社員木戸三夫おび南部産業の外間尹實は右阪和興業の社員に対し契約の目的物件と同一会社製で同種の機械ではあるが南部産業が同年五月別の商社を介して買取済みであつた別の機械を示してこれに所有権が売主に留保されていることを示すステツカーを貼付させたこと、すなわち南部産業は日発実業の資金繰りを助けるために同社と右の「から売買」を仕組み、中間売買人たる商社から日発実業に信用を供与させたこと、右事件は訴訟事件として係属中であるが、南部産業はほかにも本件と同一訴名の訴訟事件を一件は同社のみが原告となり別の一件では本件原告と共同原告となつて、前者では商社を被告とし後者ではリース会社を被告として提起し、それらは現に係属中であること、以上の事実が認められ、これに争いない請求原因第2項の事実、<証拠>によつて認められる本件借受証には機械番号の記載がない事実ならびに<証拠>によつて認められる日発実業は昭和四八年一二月一日不渡手形を出して倒産したが翌四九年一月那覇市を訪れた被告の社員中村昌義に対し外間尹吉はリース料の支払は大丈夫である旨保証したにもかかわらず同年四月末被告の日発実業に振出した本件機械代金支払手形が決済されるや同年四月三〇日満期以降のリース料支払手形の支払を拒絶した事実をあわせ考えると、本件もその意図が日発実業の資金繰りを助けるためであつたかそれとも日発実業と共謀して機械代金名下に騙取するためであつたかは確定し難いもののそのいずれにせよ原告が日発実業と通謀して本件機械の引渡がないのにこれがあるように仮装して被告をして本件契約および日発実業との売買契約を締結させた事件である疑いが濃厚であると認められるのである。

四被告は原告の本件リース料支払が非債弁済であると抗弁するが、本件機械の引渡がなくても本件契約は効力を生じ、原告はリース料の支払を拒絶し得なかつたと解すべきこと前叙のとおりであるから、原告のなした支払は非債弁済にはあたらない。

五そこで権利濫用の抗弁について判断する。

以上の認定事実と判断を総合すれば、原告は日発実業と通謀して内容虚偽の借受証を作成し、かつリース料支払手形を発行し、被告をして機械引渡の裏付けのあるリースと誤信させて日発実業に機械代金を支払わせたものである。

かかる原告が日発実業の倒産により被告において支払済みの機械代金を取り戻す可能性が消滅した段階になつて一転して本件機械の引渡がないことを主張し、リース契約の解除に及ぶのは、著しく信義に反するものであり、正義の観点から許されないところというべきである。

したがつて、原告主張の本件契約解除の意思表示は効力を生ずるに由なく、右解除の有効を前提とする本訴請求は失当である。

六よつて原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(稲守孝夫)

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